町をさまよう可愛い男の子たちがブレザーを脱ぎ、セーターを脱ぎ、やがて薄いYシャツ一枚になる季節、麻酔ガスのような、あるいはバーボン・ウイスキーのような甘い匂いのする季節、の、反対、空気はしんと冷えてきて、人肌も恋しくなってきたら、体温のないウイルスの大群に侵された。大怪我もしたことなく大病も患ったことのないわたしは体の丈夫さだけが取り柄のはずなのに、一度でも弱った免疫力はなかなか回復しない。ましてや肥大するひ弱な心、それは悪意にしぼんでいく。大儀におののく。美しさにとりつかれる。

悪意に打ち勝とうとする大儀よりは、「灰、落としたら殺すよ」という物騒な微笑みの方がずっと興味深いから、灰、落としたくなってしまって、けれどもカルバン・クラインのシャツとY'sの上着が、穴のあいていないきれいな服がよく似合う、その捉えがたいシルエット、乳白色の朝日の中を遠ざかっていく後ろ姿、「隣にいてくれるならどこでもいい」なんて、それこそわたしの思いだった。ずっと世界なんかどうでもよかった。きっと革命には向いていない。いつもすべてが気に入らなかった。なにを求めているのかわからない。暑いのか寒いのかわからない。明るいのか暗いのかわからない。正しいのか間違っているのかわからない。青か赤かもわからない。わかるのは今日もどこかで息をするあなたたちは素晴らしいのだろうということだけ。なにもかも大嫌いだ。本当に……とキーボードを叩いていたら正にいま涙が溢れてきたもののそれも瞬時に止まったからなお不可解、これをそこのあなたが読んでいるときにはもう、わたしはいつものふらふらと、揺れて、頼りなく笑う、愚かさで、

「地面に鼻を擦りつけるのが辛いのはそうしたくないと思うからだ。大きく息を吸ってみろ。鼻先にしなだれるハルジオンの微かな香りがわかるだろう。ときに、少しだけ立ち上がれるときがあるなら顔を上げてみろ。そのとき見上げる空は、それこそ実質を越えて輝くだろう。地下牢に閉じ込められていた少女が長い時を隔てて浴びる青であり、途中失明の盲人が景色を忘れたころに見る夢だ。それがおまえの幸福だ」……幸福は見事に枯れてしまった。みんなが笑いながらホースで水をやったのだ。彼らはその水で自分たちの両手も洗っていた。わたしはそれを左耳に入れた。外の音が遠くなる。自分の声は虚空に響いた。何度も君の名前を叫んだ。保税倉庫に火をつけた。ファッションブティックに落書きをした。「エフ・ユー・シー・ケー?  なんて読むの?」「バカ、『ラブ』だよ」……

そこのあなたには命を張って叫ぶ主張があるか。命を投げ出す理由があるか。あるのでしょう。わたしにはありません。この命を命と思わなくても生きてこれたのです。すべてがわたしに優しかったのです。そのうえなんだかよくわからないまま一部の人から「教祖」と呼ばれ始めた件について、「教祖であり天使なんてあり?」と聞かれたけれど、実は教祖でも天使でもないので、ありよ。これはつまらない命の容れ物だから。暗い色の口紅を買おう。なにひとつ語らないまま白いものを汚せるように。嫌気が差すほど愛してもらえるように。大丈夫。もう傷つくことはないだろう。